【映画レビュー】男はつらいよ 寅次郎夢枕(第10作)1972年・松竹

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記念すべき10作目は、寅さんがマドンナからプロポーズされることになるという珍しい展開です。

マドンナ役は八千草薫。決して若くはないのですが、寅さんの幼馴染役を可憐に演じています。

あらすじ

寅さんが柴又へ帰ると二階に御前様の甥で大学の助教授・岡倉が引っ越して来た。インテリ臭さが気に入らないが、幼馴染みで美容院を開店した千代に会いすっかりご機嫌。その千代に岡倉が一目惚れし、寅さんがこれを面白がり悪ふざけして岡倉は寝込む始末。岡倉の気持を知った寅さんは千代に代理で告白するが、千代は寅さんからのプロポーズと勘違いして承諾、必死に誤解を解くが寅さんには割り切れない寂しさが残った。数日後、失恋した岡倉はアメリカ留学へ旅立った。(C)1972 松竹株式会社〜Amazonプライムビデオ作品紹介より

「千代(マドンナの八千草薫)は寅さんからのプロポーズと勘違いして承諾」というところにご注目いただきたい。

今作では、寅さんが振られるのではなく、逆にマドンナからの告白を袖にする形になっています。

その意味で、数あるシリーズの中でも注目すべき作品であると思います。

マドンナ:八千草薫

寅さんの幼馴染「千代」を演じる八千草薫は今作当時41歳、決して若くはありませんが、可憐で美しく、非常に魅力的です。

特に、千代に一目惚れしてしまった岡倉(米倉斉加年)の想いを、寅さんが代理で千代に伝える場面での和服姿、最高です。たまらなく可愛い。若い頃は、「お嫁さんにしたいタレントNo1」の常連だったそうですが、なるほどさもありなん。

しかし、小さくて愛くるしいだけではない芯の強さも感じます。そのあたりに、八千草薫の魅力の秘密があるんじゃないかなと思ったりもします。

映画のみどころ

映画の私的見所をいくつか。

逆に告白される寅さん

今作では、珍しくマドンナから想いを寄せられることになります。

しかし寅さんは、予想もしない展開に狼狽して「冗談言うなよ」と逃げてしまうんですね。ここは好きなシーンなんですけど、非常にもどかしいですね。

寅さんがマドンナとくっついてしまったら物語的に破綻してしまうのはわかっていますが、それにしても物語の「If」を考えずにはいられません。

その告白シーンは亀戸天神が舞台になっています。千代の和服姿とよくマッチしていて、非常に印象に残ります。→亀戸天神社|公式サイト

美しい晩秋の風景

今作では、秋の深まった山梨。長野を旅する寅さん、フィルムに収められた美しい晩秋の風景は必見です。旅に出たくなります。

舎弟の登(津坂匡章)と久しぶりに再開する長野県奈良井の鄙びた宿が実にいい感じです。

その宿が今も残っているかどうかはわかりませんが、奈良井宿は国の伝統的建造物群保存地区にしていされているので、木曽路の宿場町として賑わった当時の面影を残しているそうです。→奈良井宿 – Wikipedia

いつかぜひ行ってみたいですね。

さっちゃんの花嫁姿

「さっちゃん」というのは物語冒頭、花嫁姿でとらやに挨拶に来るご近所さんなのですが、これがなんと、源公を演じる佐藤蛾次郎の実の奥さんです。

貧乏で結婚できずにいる様子を見かねた山田監督らが、奥さんを映画に出演させて、映画のセットを使って結婚式を行ったらしいです。いい話ですね。

キーワード

続いて気になったキーワードをいくつか。

マカオの寅

映画冒頭の夢のシーン、妹・さくらのピンチに颯爽と現れるのが寅さん扮する「マカオの寅」です。

この「マカオの寅」は20世紀前半にマレー半島で活動した盗賊「マレーの虎」がモデルになっています。

「マレーの虎」は福岡県生まれの谷豊という日本人です。→谷豊 – Wikipedia

もうどうにもとまらない

1972年のレコード大賞を受賞した山本リンダの大ヒット曲「もうどうにもとまらない」が劇中歌として登場します。

山本リンダはこの曲で2回目の紅白歌合戦出場を果たしました。

感想

八千草薫演じる本作のマドンナ「志村千代」、寅さんの結婚相手として非常に良いと思います。その理由を以下で述べます。

まず経済的に自立していること。千代はとらやの近所で美容室を営んでいますが、女性スタッフ数人雇っているところから察するに経営状態は悪くないでしょう。離婚して子供とは別居しており扶養家族もなし、寅さんが働かなくても十分に生計が立ちそうです。

次に初婚ではなく年齢も若くないこと。初めての結婚となれば相手に求める条件が厳しくなりますが、離婚経験があるアラフォーの男女であればそのあたりのハードルもぐぐっと下がります。

そしてお互いが幼馴染だということ。昔からの知り合いであるにも関わらず、「寅ちゃんとなら結婚してもいいわ」と言ってくれるということは、寅さんのことをよく理解しているということだと思います。

定職を持たない40過ぎの男性に、美人で経済力のある幼馴染がプロポーズするなんて千載一遇のチャンスだと思います。本当にもったいない。

しかし二人の結婚にも懸念材料がないわけではありません。

千代は経済的に自立できるスキルがあるにも関わらず、離婚の際に親権を得られていません。

母親が親権を得られないケースは非常に稀なので、離婚に至る過程で千代の方に何か大きな問題があった可能性があります。

、、、と考えると、実はお互い結婚に不向きな人間だったのかもしれませんね。

作品詳細ページはこちら→男はつらいよ 寅次郎夢枕

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