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寅さんシリーズの最終作、、、となるはずだった本作にはTV版のメインキャストが役柄を替えつつも面影を漂わせて登場します。
今ではすっかり「夢の国」のイメージが強い浦安の、漁村の名残を色濃く残した姿も見どころです。
あらすじ
早トチリでおいちゃんの葬儀の用意までして大騒ぎする寅さんの元へ、昔世話になった竜岡親分の重病の報せが届いた。早速札幌へ見舞うが、別れた息子に逢いたいと頼まれ、やっとの思いで探し出すが彼は決して会おうとはしなかった。複雑な人間関係を思い知った寅さんは真面目に働くことを決心、浦安の母娘二人暮らしの豆腐屋で働くのだった。そして、娘の美容師・節子に想いを寄せ、一生豆腐屋で働こうと決意した日、実は節子に結婚の約束をした人がいることを知らされる。(C)1970 松竹株式会社
昔お世話になった親分、まあこれが碌でもないヤクザ者だったわけですが、羽振りが良かったころの面影のないその惨めな最期に衝撃を受けた寅さんが、「今度こそ堅気に生きる」と決心するストーリーが本作品の軸になっています。
とはいえ寅さんのことですからそうは問屋が卸さないわけではありますが、調子に乗って好き勝手にしているとそのうち痛い目を見るぞ、というのが本作のひとつのメッセージかなと思います。
マドンナ:長山藍子
本作のマドンナは長山藍子さん。当時29歳。
「渡る世間は鬼ばかり」シリーズに20年以上出演しており、そのイメージが強く残っているのではないでしょうか。
実は長山藍子さんはTV版の「男はつらいよ」ではさくら役を務めているオリジナルメンバーです。
同じくTV版の出演者である杉山とく子さん(おばちゃん役)、井川比佐志(博士・博役)さんと共に、本作では映画版へゲスト出演となりました。
気さくで明るく親しみやすい女性を魅力的に演じています。
映画のみどころ
TV版の出演者
先にも少し触れたように、TVドラマ版「男はつらいよ」(1968年〜1969年:フジテレビ)のメインキャストだった俳優さんがゲスト出演しています。
その俳優さんとは、寅さんの妹「さくら」を演じた長山藍子さん、その夫となる「諏訪博士」を演じた井川比佐志さん、とらやのおばちゃん「車つね」を演じた杉山とく子さんです。
TV版 | 本作 | |
長山藍子 | 車さくら(妹) | 三浦節子(マドンナ) |
井川比佐志 | 諏訪博士(さくらの夫) | 木村剛(恋敵) |
杉山とく子 | 車つね(おばちゃん) | 三浦富子(マドンナの母) |
僕はTV版の寅さんを観たことはないのですが情報としては知っており、3人揃って画面に登場するとなんとも妙な気持ちになります。
知っているだけの僕ですらそうなのだから、きっとTV版寅さんを生で観ていた人たちは、もっと感慨深かったのではないかと想像できます。
なんでも、山田監督は本作をもってシリーズ完結とするつもりだったらしく、フィナーレを飾る意味でTV版のキャストを出演させたそうです。
しかし映画の「男はつらいよ」シリーズも当時すでに人気作品となっており、終わらせるわけにもいかず思惑通りとはならなかったようです。
蒸気機関車D5127
鉄道ファンならずとも知っている通称「デゴイチ」の現役当時の姿が登場し、北海道の大地を疾走します。
記録によればD5127は1937年に製造され、本作品上映の翌年である1971年に廃車になっていますので、本作中の映像は最晩年の貴重な記録ではないかと思います。
しかし蒸気機関車とは非常に力強いというか、男らしいというか、実にマッチョな輸送用機器ですね。
津坂匡章(秋野太作)
寅さんの舎弟「登」役として欠かせない存在である津坂匡章(つさかまさあき)さんが本作にも登場します。
「男前だな」とは思っていたのですが本作では特にかっこよく見えます。演じているのが情けない役柄なので今ひとつイメージが良くないけれど、非常に美しいお顔立ちです。
後に「秋野太作」と改名しますがそちらの方は芸名で、この津坂匡章というのは本名だそうです。
キーワード
浦安
浦安といえばディズニーランドという人が多いかと思いますが、かつての浦安は海苔の養殖やアサリ漁といった水産業で栄えた漁村でした。
1950年代、工場排水による水質汚染によって浦安の水産業は深刻なダメージを受け、漁民たちは漁を捨てざるを得ず、かつての漁場は埋立地となりました。
その上にできたのが現在の浦安市でありディズニーランドだと知ると、複雑な思いがします。
本作ではまだ漁村だった頃の面影を残している浦安を映像として見ることができ、非常に興味深いです。
エアコン
本作の舞台は夏ですが、まだタコ社長の印刷工場にも、とらやにも、浦安の豆腐屋にもエアコンがなく、どこもかしこも非常に暑そうです。
それもそのはず、本作が公開された1970年頃のエアコン普及率は5%に届くか届かないかという低い数字でした。
それから20年後の1990年代に入る頃やっと普及率が50%に達し、現在では90%以上の家庭にエアコンが設置されています。
おりつ地蔵尊
柴又駅のシーンで背景に写り込んだ「おりつ地蔵尊」の看板が気になって調べてみたところ、昭和初期に親からの虐待でなくなった5歳の女の子を弔うために建立されたお地蔵さんだそうです。
子供が健やかに育つというご利益があるとのことですが、なんともやりきれない気持ちになります。
感想
夏だからなのか、さくらもおばちゃんも妙に色気があります。
また、相変わらず寅さんは馬鹿なんだけど、この作品では「ああ、この人はバカでどうしようもなくてかわいそうなんだな」と感じさせられました。寅さんを「かわいそう」と思ったのは初めてのように思います。
それから、映画冒頭で寅さんがおいちゃんが死ぬ夢を見る旅館のシーン。川べりの部屋から見える川面にはゴミが浮かんでいて、「なんでこんなゴミを映すんだろうか?」と不思議でしたが、浦安の歴史を調べて得心しました。
あのシーンは、環境や弱い立場の人たちを犠牲にして高度経済成長へと突き進む、当時の世の中へのメッセージだったのだと思います。