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タクシー初乗り100円の時代、万馬券を的中させた寅さんは名古屋からタクシーを飛ばして故郷柴又に凱旋します。
腹巻きの財布に入っているのは100万円、現在価値に換算するとおよそ300万円にもなろうかという大金、果たして寅さんはそれをして、おいちゃんとおばちゃんにハワイ旅行を無事プレゼントすることができるのだろうか?(いやできるわけがない)
あらすじ
競馬で大穴を当てた寅さんは、柴又へ帰り、恩返しとばかりにおいちゃん夫婦にハワイ旅行を手配した。喜ぶおいちゃん達の出発の日、旅行会社の社長に金を持ち逃げされたことが発覚。近所の手前から電気もつけないでひっそり暮らすことになった。ところが留守の筈のとらやに泥棒が入ったから大変!それから一ヶ月、寅さんは自分の部屋に下宿している美しい幼稚園の先生・春子を見てウットリ。恋人がいるのも知らずに日増しに熱をあげるのだった。(C)1970 松竹株式会社〜Amazonプライム作品紹介より
前作である第3作目に引き続き山田洋次監督作でない寅さんですが、本作は寅さんの生みの親ともいうべき小林俊一さんの監督作品です。
ある意味では一番「寅さんらしさ」が濃厚に出ている作品かもしれません。
マドンナ:栗原小巻
本作のマドンナは栗原小巻さん、当時25歳。
栗原小巻さんは60年代から70年代にかけて非常に多くの男性ファンから支持されており、あの吉永小百合さんと双璧をなす存在でした。栗原小巻さんファンは「コマキスト」、吉永小百合さんファンは「サユリスト」と呼ばれ、世の男性人気を二分していたそうです。
それもそのはず、この作品での栗原小巻さんはとても可愛くてかなり魅力的で、画面に登場すると思わず目と心を奪われてしまいます。
寅さんも栗原さん演じる春子先生をひと目見た瞬間に「ぽわ~ん」と骨抜きにされてしまうのですが、その気持よくわかります。あの可愛さはちょっとヤバいです。
映画のみどころ
栗原小巻が可愛い
上でも書きましたけど、栗原小巻さんがすごく可愛いです。
目鼻立ちがはっきりしたお顔をされているのですが、輪郭がややふっくらしていて柔らかい印象で、それでニッコリ笑うと ”とびっきりの可愛さ”なんですよね。
愛嬌抜群で険がありませんので、多くの人に好かれるはずです。
若い頃の栗原小巻さんを見たことのない方はぜひ見て下さい。きっとこの気持をわかって頂けると思います。
寅さんの振れ幅
本作での寅さんはいつにも増して「困った人」っぷりがすごいです。言葉を選ばずに言うならば「相当なバカ」です。寅さんはいつも馬鹿ですけど、今回の寅さんはそれに輪をかけた馬鹿になっています。
そして、マドンナの春子先生に惚れてしまった後の骨の抜かれ具合も相当です。若干目も当てられない位の状態になってしまいます。園児たち(マドンナは幼稚園の先生)の後にくっついて、両手をふわふわさせながら小躍りするシーンなどは笑いを通り越してやや痛々しくもあります。
かと思えば決めるシーンではいつも以上にキリッとしてカッコ良いんですよね。「おっ、寅さんカッコいいな」と身を乗り出した場面が何度かありました。
「バカっぷり」と「カッコよさ」の振り幅が大きく、コントラストがはっきりした演出は見どころの一つです。
おいちゃん・森川信
本作では森川信さん演じるおいちゃんの活躍が目立ちます。
なかでも、寅さんに「婦系図」のストーリーを真に迫った調子で語って聞かせるシーンは必見です。おいちゃんファンならずとも、「ぐぐぐっ」と引き込まれること間違いありません。
普段はアシスト役の森川信さんがメインで語り、それに渥美清さんが絶妙の合いの手を入れるこの場面は男はつらいよシリーズの中でも屈指の名シーンです。まさしく磨き抜かれた技の競演という感じじゃないでしょうか。
小林俊一監督
本作で監督を務めた小林俊一さんはフジテレビのプロデューサーとしてドラマ版「男はつらいよ」の立ち上げから携わっており、、、
- 渥美清さんを山田洋次さんに紹介
- 山田洋次さんにドラマ版「男はつらいよ」の脚本執筆を依頼
- 星野哲郎さんに主題歌の作詞を依頼
- ドラマ版「男はつらいよ」の演出を担当
といった実績から「寅さんの生みの親」ともいうべき人物です。
そんな小林俊一監督の作ったこの作品は、ある意味では最もオリジナルに近い「男はつらいよ」の世界を表していると言えるでしょう。
ですから本作での異常にギャップの大きな寅さんこそが、最も「車寅次郎」というキャラクターの本質なのだと思います。めちゃくちゃにバカで時々びっくりするくらいかっこいい男、それが寅さんなんだなと、あらためて実感しました。
御前さまのメガネ
何故か本作では御前さまがメガネをかけているシーンが多いのですが、もとが男前なのでメガネがまあよく似合います。袈裟とのコントラストがこれまた良いんですよね。
メガネ好きの人には堪らないんじゃないでしょうか。
キーワード
舌代
映画冒頭のシーン、寅さんが立ち寄った峠の茶屋のお品書きに「舌代」と書かれています。
舌代とは(ぜつだい)と読み、「口で言う代わりに伝える」という意味で飲食店などでメニュー表に書かれているものです。
「メニュー」とか「お品書き」といった程度の意味ですが、普段見慣れない表現なだけに、ちょっと気が利いてるような印象を受けますね。
ルンビニー幼稚園
マドンナの春子先生が勤務しているのがこのルンビニー幼稚園ですが、これは帝釈天題経寺が運営している幼稚園で園長は御前さまです。
そしてこのルンビニー幼稚園、現在でも運営されている実在の幼稚園なんですね。→柴又帝釈天付属ルンビニー幼稚園
ちなみに「ルンビニー」とはネパール南部の小さな村で、仏教を開いたお釈迦様が生まれたとされる仏教の聖地です。
アベック
現在は死語とされているこの「アベック」は、いわゆる「カップル」を意味する言葉として1960年代〜1980年代まで広く流行していました。
流行度ど真ん中であった1970年公開の本作でもセリフとして何度か登場します。
「婦系図」
「婦系図」(おんなけいず)は泉鏡花の小説中最も親しまれてきた作品で、古くから演劇・映画・ドラマの原作としても数多く取り上げられてきました。
若きドイツ語学者早瀬主税と柳橋の芸者お蔦の悲恋を中心に展開される義理と人情の物語ですが、今の感覚からすると正直理解するのが難しいですね。
原作は青空文庫で無料で読めます。→「婦系図」
ハワイ旅行
海外渡航自由化(1964年)から6年後、本作が公開された1970年にはその後の第一次海外旅行ブームのきっかけとなる出来事がありました。
それはジャンボジェット機、ボーイングB747型機の日本就航です。
それまでの3倍近い乗客数を運ぶことができる大型機の登場によって海外旅行のコストが5割から7割ほど安くなり、1969年に50万人足らずだった海外旅行者数は、4年後の1973年には200万人を超えるまでに激増しました。
本作で寅さんがおいちゃんたちをハワイに連れて行くことになる(結局行けなかったとはいえ)展開も、そういった世の中のトレンドに沿ったものだったということがわかります。
感想
寅さんの目に余るバカっぷりは玉に瑕で、全体としては非常にエンターテイメント性に優れた作品です。
マドンナや寅さん達メインキャストの魅力もさることながら、とらやのご近所さん達もとても生き生きと描かれていて画面全体がエネルギッシュです。
また全ての出演者が生かされているせいなのか、いつにも増してカメラワークが素晴らしく、思わず見惚れるような美しいカットが随所に散りばめられています。
小林俊一監督について何も知らずにこの作品を鑑賞し「この監督は何者なのか?」と調べて納得、寅さんをこの世に生み出した人の豊かな愛情が詰め込まれているのがこの「新 男はつらいよ」なのです。
作品詳細ページはこちら→「新 男はつらいよ」